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4月からはじまる学生生活に期待や不安をかかえている受験生のみなさんも多いのでは? 大学での学びは、中学や高校までの暗記中心の勉強とちがい、自分で考えながらすすめていくもの。そんな大学での学びについて、中央大学助教授の佐久間英俊さんといっしょに考えてみよう。(「民青新聞」2006年2月27日付に連載)


大学での学びを考える  

社会科学への誘い

佐久間 英俊(さくま ひでとし・中央大学助教授)

■科学的な見方を身につけ生き方を確立する

大学生の特権の1つは時間があることだといわれます。多忙で厳しい競争社会から隔離された憩いの数年間でしょうか。しかし私の周囲の学生を見ていると意外に忙しそうにしています。多くの学生は卒業後、就職という形で社会に出ますが、学生生活にはその準備期間という意味があります。また他面では、青年の人格形成期間としても大きな意味をもっています。この時期をどう過ごすかはたいへん大事なのです。
 大学生の大きな課題の1つとして、親からの自立があげられます。学費など経済面で親に依存する学生が多いことは当然ですが、ここで問題にするのは精神面での自立です。親の人生を客観的に位置づけ、それとは独立したものとして自己の考えや生き方を確立する時期です。これらをすすめる上で強力な味方となるのが大学での学びです。
 一方、大学卒業後、社会で活躍するのに必要な能力の形成という面からも、学びは必要です。この間の就職難を反映して、在学中に資格をとろうという学生がふえているし、最近では「生き残り競争」のもとで、大学側が資格取得をすすめるうごきも見られます。読者のなかにも、弁護士や公認会計士を目指したり、民間企業に入るため外国語や簿記の資格をとりたいという人がいるでしょう。資格の意義を否定はしませんが、大学生活がそのための勉強で手一杯になるのではもったいない。なぜなら、大事なことは、資格をとった後にいかなる専門家になるかであり、社会で活躍できる能力を修得できたかにあるからです。
 親から自立するにも社会で活躍できるようになるにも、自分がくらす社会の仕組みを知らずして、なしえません。自然界に法則があるように社会にも法則があります。こうした法則の解明こそ科学の仕事です。大学での学びの中心は科学的認識の獲得にあります。

■自己の問題意識と主体性にもとづいて

ここで今日の日本社会の特徴を少し見ておきましょう。2004年の交通事故による死亡者数は7358人ですが、自殺者は3万2325人です。どちらも不幸ですが、みずから命を絶たねばならない人の数がこれほどになる先進国はないでしょう。また日本社会の貧富の格差は急拡大しているという調査結果があります。いま日本では6・6人に1人が貧困層に分類されるといわれています。これほど生産力が発展している下で、なぜこうした事態が生じるのでしょう。この他にも南北問題、資源の枯渇、地球環境破壊の深刻化、テロと戦争の危険、食品の安全侵害など、枚挙に遑がありません。これら一見なんの関連もないように思われる現象も、背後では相互に関連していることがあるのです。
 高校までの勉強と大学での学問との最大のちがいは、後者が自己の問題意識や主体性にもとづいておこなわれることにあります。受験勉強のように、学ぶべき範囲があらかじめ決まっているわけではなく、何に関心をもつのかも自由だし、ある現象をどうとらえるかについても明確な正解があらかじめ存在するわけではないのです。あなたが関心をもったものを、自分でくわしく調べたり、他の人と議論したりして、認識を深めていくことに特徴があります。目の前の事実から出発して、それを抽象化(分析)する。そしてその背後に潜む本質的要素を取りだすのです。疑問が一気に氷解することは稀で、さまざまな事実や理論を検討し、考えあぐねて、ようやく一定の結論をえるような苦労を要する作業になることもしばしばです。しかし、知らなかったことがわかるということは、一般にうれしいことです。また詰め将棋やパズルのように、試行錯誤の末に解けたときのよろこびは一入です。みなさんにもぜひ、体を鍛えるのと同じく、頭脳を鍛えるおもしろさを味わってもらいたいと思います。

■現実と科学の世界をむすびつけて

学びにかかわっていくつかのアドバイスをしましょう。まず、関心あるテーマを見つけ問題意識をもつことです。しかし、その前提として現実についてイメージできなければなりません。それは本、新聞、雑誌、テレビなどあらゆるものから形成できます。日ごろから簡単な疑問をたくさんためておき、徐々に関心領域をひろげてください。別の問題を考えている時に相互の関連がわかって、疑問が解けることがあります。

第2に、教養をひろげることです。はばひろい教養は視野をひろめ、認識発展の支柱となります。本やテレビなどの他に、映画、絵画など、多様なものを通じて獲得できます。第3は読書です。本は通常、その道のプロが長年の蓄積にもとづいて記したものです。それをわれわれは短時間で知ること(擬似体験)ができます。ある意味では時間の制約を越え、他人の労働の成果を手にできるのです。自分なりの読書計画を立てて、どんどん読みましょう。

第4に、正規の授業ではゼミナールの履修をすすめます。大学の授業も通常は講義形式が大半で、学生がよほどの心構えでのぞまない限り、教員からの一方通行の授業となります。それにたいしてゼミは少人数で、1つのテーマについて調べたり、学生同士で議論したりする形式を取ります。学生の主体性を特徴とする大学での学びにもっともふさわしい授業形態です。

第5は、学術サークルへの入会です。社会科学を本格的に学びたいと考えている人は、社会科学研究会などに入るのがよいでしょう。通常、学部や学年を越えた多様な学生が集います。仲間とともに学ぶことは、学生の知的成長の最大の条件でしょう。卒業後にもとめられる能力には、サークルの組織運営を通じて獲得できるものがたくさんあります。適切なサークルがない場合は、気のあう友達をさそって読書会をもつこともできます。

第6に、科学的社会主義の古典をすすめます。マルクスは資本主義社会も階級社会であり、社会矛盾の多くがここに起因していると見て、『資本論』を書くことによって、さまざまな社会現象を究極的に規定する経済法則を解明しました。また、歴史発展の原動力を、自由と民主主義をもとめる人びとの協同の力に見ました。人類史は、個々に紆余曲折はありますが、大きな流れのなかでとらえれば、自由と民主主義が発展する方向に向かっているといえます。マルクスの主張は古くなったどころか、今日ますます輝きを増しているように思います。みなさんもぜひ科学的社会主義の古典、とくに『資本論』に挑戦してみてください。

現実世界の激変を受けて、科学の世界には研究課題が山積しています。いまほどおもしろい時代はありません。脳の柔軟性が高いいまこそ、ぜひ思う存分科学の醍醐味を味わってください。


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