子どもの成長支えたい 安心して子育てしたい 希望の保育

一つの匿名ブログが、保育に関わる人々の中に鬱積された怒りと苦しみに火を付けました。保育所に入れない待機児童問題とともに、保育所の未整備や保育士の過酷な働き方の改善を求める声は、保育を国政の一大争点に押し上げています。現状を転換し、希望ある保育をどう実現するか。当事者や青年らと考えます。    (文中は一部仮名、日隈広志記者)

リズム遊び。第二さくら保育園には2015年4月時点で園児91人に対し保育士が19人いる(9日、埼玉県深谷市)

リズム遊び。第二さくら保育園には2015年4月時点で園児91人に対し保育士が19人いる(9日、埼玉県深谷市)

共感から信頼をつくる
新緑の木々と小鳥のさえずりが子どもたちを迎えます。一人の園児が母親の脇で泣いています。「どうしたの?」「昨日散髪したんですけど、『変じゃないか』って」「そっか、思ったのと違ったのかな。でも変じゃないよ、とってもすてきだよ」。そう言うと保育士は園児の頭を優しくなでました―。埼玉の社会福祉法人さくら会第二さくら保育園の朝の風景です。
園では午前9時ごろから、全員参加でピアノの音楽に合わせ全身を使ったリズム遊びをします。保育士の動きに合わせリズム遊びをする園児の他に部屋の隅で眺めている子も。そういう子を保育士はリズム遊びに誘いますが無理強いはしません。「『やりなさい』と言っても子どもは動かない。子ども自らの『やりたい』という意欲を大事にしている」と保育士の江上繭子さん(27)は話します。

紙芝居を園児に読み聞かせる池上さん(9日、埼玉県深谷市)

紙芝居を園児に読み聞かせる池上さん(9日、埼玉県深谷市)

園には広々とした庭に小高い築山があり、子どもたちが大好きな場所です。土を掘り返し、泥だらけになって駆け回ります。いたずらも大好きで、水たまりの水を掛け合ってはしゃぎます。保育士の笠島彩夏さん(26)は「子どもにとっていたずらは『新しい世界をどう楽しんでやろうか』という好奇心の発露。その子の生きる力を見るとこっちも元気になる」と言います。「子どもの行動一つひとつに意味がある。その子のまなざしや言葉も丁寧に拾いたい」
「その子らしい成長を引き出す保育がしたい」と保育士の池上千明さん(23)。うまく気持ちを伝えられず怒ったり泣いたりする子どもの行動に触れ、「まず共感したい。『~したかったんだね』『~が嫌だったんだね』と代弁したりして子どもの思いに寄り添うことが、『したいことをしていい』という大人への安心感や、子どもの元気の源になると思う」と話します。
さくら会では「一人ひとりの子どもの人格を尊重する」という保育を大事にしています。池上さんは、子どもたちから「人間は一人ひとり違うんだ、とあらためて教えられた」と言い、競争・成果主義とは異なる園での自身の変化を喜びます。「未熟な部分がたくさんあるのに、先輩たちは私の行動や言葉に共感してくれ、『間違っても大丈夫』と私の意欲を支えてくれた。一人のプロとして見てくれていると思えて、後輩にもそう接したいと思えた。ここで働き続けたいというエネルギーになっている」とふり返ります。

安心・安全の保育所を
保育所は児童福祉法(1947年制定)によって定められた福祉施設です。同法24条は両親の就労などにより「保育を必要とする」状態の児童の保育所への入所などを市町村に義務付け、保護者の働く権利を保障しています。世界的には、育児が障害とならずに、男性も女性も自由に生き方を選択できるように保障する施設でもあります。
山里友香さん(31)、陽士さん(35)夫妻には、2歳の子どもがいます。小学校教員の友香さんと団体職員である陽士さんは「お互いの仕事へのやりがいを大事にしたい」と話し合い、1歳からの保育園入園を希望しました。0歳の時、友香さんは1年3カ月の育児休業を取得。その間陽士さんは3カ月の育休を取りました。昼夜問わず3時間ごとに授乳を行うなど友香さんが子どもにつき、家事や予防接種のスケジュール調整などを陽士さんが担当。陽士さんも子どもにつき、緊張が続く友香さんのリフレッシュ時間をつくりました。陽士さんは「何でも物を口に入れたり、歩けるようになったら家具にぶつかったり。細やかな注意に気疲れの毎日」と言います。
入園が決まり友香さんは職場に復帰しましたが、陽士さんは育児の大変さをふり返り「保育園に入れなかったらどちらかは仕事をあきらめていた」と言います。入園先は保育の基準を厳しく定める認可保育所。陽士さんは待機児童問題に触れ、「入園できない家庭があるから素直に喜べない。子どもの命や成長を考えれば、外で遊べる園庭があるか、経験豊かな保育士がいるかなど、できるだけ安心して預けたいとみんな思っている」と話します。

第二さくら保育園の園庭。「広い園庭が魅力でここを選んだ」と言う保護者も(9日、埼玉県深谷市)

第二さくら保育園の園庭。「広い園庭が魅力でここを選んだ」と言う保護者も(9日、埼玉県深谷市)

近年、保育所を利用する子どもは2005年の約212万人から15年の226万人に増加し、保育所への需要は高まっています。しかし、歴代自民党政権は子育てを「自己責任」として市町村への補助金を減らすなど国の保育予算を削減。自治体は直接責任を持つ公立保育所の統廃合を進め、最近10年間に全国で2500の公立保育所がなくなりました。
その下で待機児童問題が深刻化しています。政府は認可保育所の待機児童を全国で2万3167人と発表していますが、対象外とする「やむなく認可外の施設に入った」などの実態(厚生労働省が3月30日公表)も合わせると、少なくとも全国で8万3千人超です。
児童福祉法に背き、待機児童問題を深刻化させ、実態まで小さく見せかける自民党政治の姿勢は到底許されません。大企業と富裕層への優遇税制を改め、早急に欧米並みに保育の予算を増やすべきです。安心・安全の基準が守られる認可保育所の増設が急がれています。