就職活動から考える 希望もって踏み出せる社会に

毎年のように企業の採用活動の時期が変わり、翻弄される学生生活。増加する不安定雇用や「ブラック企業」など労働市場の変化が、「社会に出る」「仕事をする」ことへの不安に拍車を掛けています。就職活動の実態や進路を模索する青年の願い、働く先輩たちの姿から「働くこと」を考えます。   (文中は一部仮名、松浦裕輝記者)

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「会社説明会は50回参加し、面接は10社受けた。内定を受けたけど就職活動中はつらかった」と話す女性(大学4年)(6月30日、渋谷)

翻弄される学生生活
「振り回されている」―。就職活動の長期化による学業への悪影響という批判を受け昨年から、新たな採用活動のルール(経団連)が開始しましたが、早くも今年から変更されることになりました。就活サイトのエントリー受付や会社説明会が大学3年の3月から「解禁」されることは変わらないものの、面接などの選考開始時期は8月から6月に前倒しされました。毎年のように変わる企業の採用活動に翻弄される一方で就活の大変さは変わっていません。
6月30日、渋谷の街頭で取材に応えた高橋正行さん(大学4年)は宮城から面接を受けに来ているといい「眠いし疲れている」と話します。4月から就活を始め、合同説明会は10回以上参加し、面接も5、6社程受けましたが内定は出ていません。卒業に必要な単位は3年までに取得したため、学業への影響はないという高橋さん。「お金もない中でバイトしながらやっている」と面接のたびにかかる交通費が負担です。希望の職種は自分なりに考えましたが決まらないまま就活を続けてきました。「(面接では)アピールが足りないと言われる。次はがんばろうと思うけど、周りが決まっていくと焦りがある」

就活スケジュール_アウト

 

やりがいある仕事したい
岩手のハウスメーカーから内定を受けた鈴木朋子さん(大学4年)は「建築学科だから業種を最初から絞れて企業を選びやすかった」と話します。インターネットの就活サイトで調べて3社の会社説明会に参加。「働く人の雰囲気を見て、活気があるところを選んだ」と2社の面接を受け1社から内定を受けました。給与や企業規模は「悪くない」と言う鈴木さんですが、「出勤が午前10時で退勤が午後8時。残業したら何時になるのか。勤務時間は大変そう」と不安を口にします。知人や先輩からは「どこに行っても大変」「ハウスメーカーはどこもブラック」と聞きました。「休日返上で働いたり、会社優先みたいにはなりたくない」。
大学の授業では、換気や気温などの機能性や住む人の要望に応える設計を「みんなで考えるのが楽しかった」とふり返る鈴木さん。「ハウスメーカーが作る家は規格化されているから、将来的には設計事務所で働いて、自分で家を設計したい」と話します。

ゆっくり考えたい
大卒者の就職率は改善傾向にあるといわれ、鈴木さんのようにすでに内定をもらったという人もいる一方で、就職活動そのものへの疑問から「働くこと」や進路を模索している人もいます。
就活を有利に進めたいと周囲よりも「早く動く方だった」と言う西田裕也さん(大学4年)は、3年の夏に就活向けの授業を取ったことで「就活に後ろ向きになった」と話します。「通るエントリーシート(ES)・履歴書の書き方」や「集団面接を面接官の立場から採点」などの授業を受けた西田さん。「ESとかもパターン化されている。企業にとって使えるかどうかが重要で個人を見てもらえない。思ったことを言ったりできず自分らしさが出せない。仕事に対して情熱を持てなくなる」と話します。「やりがいを持てる仕事を探していた」と言う西田さんですが、「考える時間が本当にない。就活に追われて、波に乗り切れないと将来やばいぞという気持ちになる。追い込まれると雇ってくれるだけで良かったとなりそうで、それでいいのかと思う」と話します。「今は本当に進路に悩んでいる。友だちが内定を取ったと聞くと焦ってしまうけど、よくよく考えて後悔しない進路を選びたい」(2面につづく)

~生き方に照らしてキャリア形成を 福岡大学人文学部准教授 植上一希さん~
就職活動でしんどい思いをしたり、社会に出て行くことに対して不安を感じている人はたくさんいると思います。「ブラック企業」など社会の現実を知りつつ不安に向き合っていける力を身に付けてほしいです。
就活は「労働者になる」という視点でしたたかにとりくんでほしいなと思います。労働法など労働者の権利はもちろん、それを使いこなす技を知ることが必要です。とはいえ、就活では自分の考えや学んできたことを否定される恐れもあるのできついときは無理せずに距離を置くことがあってもいいと思います。
企業や働き方は生き方に照らし合わせて選ぶことが大事です。生き方を選ぶことに正解はありません。正解がないことを選んでいくのは難しいことです。いろんな意見を見て迷いながら、自分にふさわしい考え方を選び言葉にすることが大学での学びの中心です。大学だけでなく社会活動など現実と向き合うときは正解があるわけではありません。悩んだり、決断することをくり返す中で価値観や軸ができ、キャリア形成に向き合う力になると思います。(2面につづく)