英国EU離脱 理念にのっとり国民守って

英国で6月23日、同国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が行われ、離脱支持が51・9%と過半数を獲得。英国のEU離脱が決定的となりました。EU設立以来初の加盟国の離脱を受け、日本をはじめ世界の金融市場は混乱に陥りました。経過や背景を考えました。

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なぜ離脱派の勝利に?
国民投票は、投票率72・2%、賛成・反対合わせて3355万1983票に上る英国の「歴史上最大」の投票の一つとなりました。ロンドンやマンチェスターなど都市部で残留票が上回り、イングランド中部を中心に各地で離脱票が集まりました。
離脱派勝利の背景には残留派を主導したキャメロン英保守党政権への不満があります。英政府は1970年代以降、国営の鉄道や電気通信を民営化するなど構造改革を断行してきました。石炭産業などが衰退する一方で、金融業は繁栄し、経済格差が広がっていました。キャメロン政権は「リーマン・ショック」(2008年)に始まる欧州債務危機の対応などで、さらに増税や社会保障削減などの緊縮政策を推進し、企業の競争力を高めるためと低賃金政策を実施。その結果、イングランド中部を中心に失業や貧困が拡大し、離脱票が6割を超えた地域も生まれました。
キャメロン首相が国民投票の実施を具体化したのは今年2月。シリア内戦に起因する難民の受け入れが問題となる中、以前からあった東欧諸国からの移民に焦点が当たっていました。一部の離脱派は「移民が英国民の仕事を奪っている」などと主張し、EUが出入国審査なしに域内の移動の自由を保障していることが「移民流入の元凶」だと攻撃。経済的困難にあえぎ、東欧の移民と競わされる労働者の不満に拍車を掛けました。国民の中に行き詰まった現状を変えたいという思いがあったといえます。
渋谷の街頭で取材に応じた青年からは「離脱すると思ってなかったから驚いた」などの声が出されました。介護職の男性(24)は自身の給料の低さに触れ、英国の低賃金労働者の「『変えたい』という気持ちも分かる。でも離脱することでヨーロッパの中で孤立して結局、経済的に苦しむことにならないか心配」と話します。

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移民の人権と安全守れ
投票結果を受け、キャメロン首相は辞意を表明。英国は今後、議会の審議を経てEUに離脱を通知し、2年の猶予期間内に各種協定をEUなどと交渉します。残留支持が6割を占めたスコットランドが残留を求めて英国からの独立の動きを見せるなど政治的混乱は今後も続くと見られます。
国民の中では「投票のやり直し」を求めるオンライン署名が400万筆を超える一方、投票後3日間で東欧ポーランド人に対する暴行事件などヘイトクライム(憎悪犯罪)が90件発生するなど移民の人権と安全が脅かされています。
「移民排斥は許されない」と言う男性(大学4年)は、第2次世界大戦でヒトラーが行ったユダヤ人などの大量虐殺を挙げ、「戦争につながらないかと不安になる。差別を許さない社会づくりを日本からもうったえたい」と話します。
投票結果は経済に大きな影響を与えています。世界の金融市場は一時混乱に陥り、英米仏などで株価が急落しました。日本では、24日の東京株式市場の日経平均株価の終値が前日比1286円33銭安と暴落。安倍政権が大量の資金を市場に流して外国の投機マネーを招き、株価を釣り上げてきたことによる経済の脆さが露呈しました。消費税増税を断念し、社会保障を充実させ、「ブラック」な働かせ方を改めて個人消費を温め、金融頼みから実体経済と内需主導の経済に切り替える政治が必要です。

原点に立った見直しを
投票前、英国ではインターネットでEUについて検索する人が多数おり、EUをあらためて考える機会になったといいます。
EUとは何でしょうか。EUの原点は「戦争をくり返さない」という平和への決意です。第1次・第2次世界大戦の悲劇を反省し1952年、独仏の資源をめぐる紛争の和解のため欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足。平和のための経済統合という理念を掲げて域内の関税の撤廃や単一通貨ユーロなどをつくり、加盟28カ国に上るEUへと発展しました。EUの憲法に当たる欧州連合条約は前文でEU諸国民の連帯がヨーロッパの平和的統合の基礎だとうたい、「人間の尊厳に対する敬意」「民主主義」「労働条件の改善」などを掲げています。
しかし単一市場の中、大資本を持つ独仏などがギリシャ・スペインなど南欧諸国の富を吸い上げ、域内の格差が拡大しています。EUは債務危機に陥った南欧諸国に対し福祉や公務員の削減など緊縮政策を押し付け、各国で不信感が高まりました。EUは憲法の理念に立ち返るべきです。各国の主権を尊重しつつ、諸国民の暮らしを守る主導性が問われています。
国民投票で残留派は、EUが各国の労働時間制限や休暇制度、社会保障の拡充に貢献したことを強調し、EUへの連帯をうったえました。「離脱してもEUや英政府は国民が苦しまないようにしてほしい」と言う女性(大学2年)は「テロ問題とか世界全体で考えないといけない今だから、(理念を)忘れちゃいけない。EUは協力して解決していく方法を発展させてほしい」と話します。