ノーベル賞受賞者が警鐘 基礎研究の予算増やして

10月3日、ノーベル医学・生理学賞の東京工業大学栄誉教授の大隅良典さんへの授与が決まりました。記者会見の中で大隅さんは、今後日本で基礎研究が衰退していくことを危惧しました。背景にある自民党政治による大学の基礎研究への予算削減について、基礎研究の大事さとともに街の青年に聞きました。(文中は一部仮名)

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「国は大隅さんの警鐘を重く受け止めるべきだと思う」と話す男性(11月1日、渋谷)


「役に立つ」ばかりでは駄目

大隅さんの研究テーマは、飢餓状態の細胞が自身のタンパク質を分解して再利用を図る「オートファジー(自食作用)」と呼ばれるしくみです。大隅さんは1988年、世界で初めて飢餓状態にある酵母細胞の液胞の中のオートファジー現象を観察。その後オートファジーに不可欠な遺伝子も特定しました。この発見を機に世界で年間数十件だった関連論文は今では約5千件に上り、オートファジーがあらゆる生物に共通する機能で、がんや糖尿病などと関連することが明らかになりました。研究が広がるきっかけをつくったことが評価され今回の受賞につながりました。
大隅さんの研究は商品化や利益を生み出すことを意図しておらず、真理を探求する基礎研究と呼ばれます。記者会見で大隅さんは「研究を始めた時に、オートファジーが病気や寿命に関わると確信していたわけではない」「サイエンス(科学)はどこに向かっているか分からないから楽しい」と基礎研究の大事さを語りました。
日本人の自然科学分野でのノーベル賞受賞は3年連続で、2000年以降では17人目です。日本の基礎研究の水準の高さを示しますが、その研究成果の発表のほとんどは1970~90年代です。大隅さんは10月12日、自民党の部会で日本の基礎研究の環境の劣化を指摘し、「このままいくとノーベル賞受賞者が10年、20年後には出なくなる」と警鐘を鳴らしました。背景には、自民党政治が「役に立つものしか、予算を付けない」と「選択と集中」を図り、この12年間で国立大学の人件費など基盤的予算を1467億円も削減してきたことがあります(左上図)。一方で、競争的な資金を増やし研究者間の過度な競争を強要してきました。成果主義が強まり、自由な研究、長い目で見た研究が弱められています。
大学院の博士課程で生物の食物連鎖をテーマにカエルを研究している横山恵一さん(28)は「基礎研究にはお金がかかる」と言います。研究で扱うカエルを飼育する水槽だけで「数十万円かかる」と横山さん。「お金を理由に研究をやめたくない。誰もが基礎研究をできるよう予算を付けてほしい」とうったえます。

研究を軍事動員するな
%e9%81%8b%e5%96%b6%e8%b2%bb%e4%ba%a4%e4%bb%98%e9%87%91 渋谷の街頭取材では「学問にはお金をかけるべき」(大学1年、女性)「国は基礎研究の大事さを見直してほしい」(23、アルバイト、男性)などの意見が口々に語られました。
しかし安倍政権は「成長戦略」の一環として従来の路線をさらに強め、大学を危機に追い込んでいます。大学が自由に使える「運営費交付金」については今年度は前年度と同額でしたが、その中の人件費など最も基盤的な経費を削減し、その分を競争的な経費に置き換え各大学に評価に応じて配分します。各大学は基盤的な経費削減を強いられ、北海道大学では2021年度までに教授205人分相当の人件費削減案が浮上。新潟大学では新規採用をせずゼミがなくなるなどしています。渋谷で取材に応えた会社員の女性(22)は大学で博物館学を学び、「ゼミは研究の大事さや面白さを知れた場所。ゼミをなくすような予算削減はしないでほしい」と話します。
一方で安倍政権が強行する「戦争する国」づくりの下、防衛省は税金を使って研究者を軍事に動員しようとしています。防衛省は来年度予算案の概算要求で、大学や公的研究機関、民間企業に研究資金を提供し、兵器を研究開発させるなどの「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)に110億円を計上しました。今年度予算の6億円から18倍の増額で、研究費不足の状況を利用し軍事研究に誘導するものです。
このような「軍学共同」の動きに対し、東京大学や京都大学をはじめ多くの大学が軍事研究禁止の再確認をしました。研究者の願いは平和な社会の下での研究です。国は防衛省の研究推進制度を早急に廃止するべきです。

人類の希望開く可能性
大隅さんの研究は、地道に真理を探究する基礎研究が思わぬ展開で有用性をもたらし、人類に希望を開くことを示しています。大隅さんは記者会見で「少しでも社会がゆとりを持って、基礎科学を見守る社会になってほしいし、そのために尽力したい」と述べました。前出の横山さんは自身の基礎研究の魅力について「身近な動物を研究するから子どもたちの好奇心も育つ。一見無駄なものでも知的な関心が育つ」と言います。前出の渋谷の女性は基礎研究が広がる社会について「いろんな可能性が増える社会だと思う。戦争しないと決めた国として紛争の平和的な解決方法や、医療や福祉が豊かな社会にしたい」と話します。
政府は予算の「選択と集中」を見直し、運営費交付金を増額すべきです。それこそが大学の危機を打開し21世紀の日本の知的基盤を育む道です。