日常奪う戦争見つめて

長い道』『夕凪の街 桜の国』などで知られる、漫画家こうの史代原作のアニメ映画『この世界の片隅に』が公開中です。戦争によって日常が奪われ、戦争に組み込まれていく市民の日常生活を描いた作品で、注目を集めています。映画を見た青年に感想を聞きました。(文中は一部仮名)

12面メーン

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

~物語~
1944年(昭和19年)2月。18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・広島呉へとお嫁に行くことになる。新しい家族には、夫・周作、そして周作の両親や義姉・径子、姪・晴美。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日の暮らしを積み重ねていく。
45年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして45年の夏がやってくる―。

生活壊す怖さ感じた

来場者が書いた感想。「空襲を体験した母とイメージが重なって観てしまいました」「すずさんの一生懸命生きている姿に涙しました」などのコメントが並ぶ(昨年12月14日、テアトル新宿)

来場者が書いた感想。「空襲を体験した母とイメージが重なって観てしまいました」「すずさんの一生懸命生きている姿に涙しました」などのコメントが並ぶ(昨年12月14日、テアトル新宿)

昨年12月14日、テアトル新宿を訪れると立ち見客が出るほどの人でにぎわっていました。11月の公開当初は63館から上映が開始されましたが、SNSや口コミで話題を集め、192館(昨年12月19日時点、予定を含む)に順次拡大しています。
映画を見た青年からは「ツイッターで話題になり気になった」「何げない日常が戦争によって壊されていく怖さを感じた」などの声が聞かれました。寛貴さん(高校3年)は「漫画『はだしのゲン』を読んだけど、リアル過ぎて途中で読めなくなった。この作品は、温かみのあるタッチで日常生活が描かれていて、戦争や原爆の悲惨さを直視できると思った」と話します。
作中では、戦争の悲惨さだけでなく、主人公のすずが着物を裁断して上衣ともんぺにつくり替えたり、水分などでかさを増した料理で空腹をしのぐなどの日常生活が描かれます。片渕須直監督は「すずさんを通して、ここで描かれている世界も自分たちが今いる世界の一部なんだと認識し直してほしい。71年前の世界を、自分たちのいる世界の一部だとして描かなければいけないと思った」と語り、広島市や呉市の当時の街並みなど人々の暮らしを精密に描くことでリアリティーを追及したといいます。
母親と見に来た雅人さん(高校1年)は昨年、作品の舞台である呉市を学校行事で訪れたといいます。雅人さんは「自分が行った場所はここなんだと映画を見て実感した。戦闘だけでなく、その人がどんな暮らしをしていたのかが描かれていたのが良かった」と話します。

現代とつなげて

草履や防災頭巾など当時の道具を見る来場者(昨年12月14日、テアトル新宿、12月16日より展示コーナーは縮小)

草履や防災頭巾など当時の道具を見る来場者(昨年12月14日、テアトル新宿、12月16日より展示コーナーは縮小)

作品を通して現代の社会とつなげて考えた人もいます。柔らかいタッチや料理などの細かい描写が「新鮮だった」という香織さん(27)は、友人から原作の漫画を借りて興味を持ちました。「映画ではリアルな体験や事実を知ることができ、みんなの心にとどめておくことができる」と香織さんが語るように、実際の出来事や史実に基づきストーリーが展開されていきます。
戦後70年がたち、戦時中のことを語れる人が少なくなっている中で香織さんは「政治のトップが歴史を知らずに戦争の道へと突き進んだら危ない」と話します。「戦争に巻き込まれるのは一般市民。そこが一番問題だと思う。歴史を知ることは過ちをくり返さないために必要だとあらためて感じた」
原作者のこうの史代さんは「登場人物が『死ぬかどうか』ではなく『どう生きているか』に重点を置いた」「20年後、30年後に戦争を知るひとたちがだんだんいなくなってしまったときのことまで想定して作られている」作品だと語っています。
秀介さん(大学2年)は「主人公が空襲で被害に遭うシーンを見て、海外派遣されている自衛隊を想像した」と話します。秀介さんは南スーダンに派遣されている自衛隊が「駆け付け警護」任務によって住民に被害を与えるのではと危機感を募らせています。「映画を見て普通に暮らすことの幸せを感じた。日本が海外で武力行使することが、過去の話じゃなくなるかもしれない。これからも日本は戦争しないでほしい」